看護師さんたちに頭を下げて病室を後にする。

エレベーターホールにも季龍さんの姿はなく、少し迷ったけどエレベーターで1階まで降りる。外来を含め、周囲を見渡したけど、季龍さんの姿はどこにもなかった。

「…季龍さん?」

「お連れの方なら、外にいらっしゃいますよ」

「え?」

受付からかけられた声に振り返り、指差された自動ドアの向こう側に見知った背があるのを見て、ようやく季龍さんの居場所を知る。

お礼を言って、カードキーを返すと外に出る。タクシー乗り場の前にあるベンチに座る季龍さんに駆け寄っていく。

「季龍さん、お母さん落ち着かれましたよ。今なら…」

「帰るぞ」

「え?…季龍さん!?」

私が来たのを確認した途端、立ち上がり、待っていたタクシーに近づいていく季龍さんは、一切振り返ろうとしない。

後部座席のドアが開くなりタクシーに乗り込む季龍さんの腕をつかむ。

「季龍さん、どうしたんですか?せっかく、お母さんに会えたのに…」

「…がう」

「え?」

「…あれは、おふくろなんかじゃねぇ」