数人の看護師さんに押さえつけられている女性は、正気だとはとても考えられない。

狂ってしまった。狂わされてしまった。

その考えが頭をぐるぐる回る。古いテレビのように、ぶつぶつと途切れながら映像が過る。

『壊れちまえ』

耳の奥で響いた声に両耳をふさぐ。

違う。あの人はここにいない。…私はもう、あの人に囚われてない。

いつの間にか止めていた息をゆっくり吐き出して顔を上げる。

いまだ暴れている女性を見つめ、近づこうとしたとき目の前を誰かが横切っていく。

「ッ季龍さん!」

脇目も振らず部屋を出て行ってしまった季龍さんの後を追おうとしたけど、なぜか足は動かなかった。

…季龍さんなら、戻ってきてくれる。

そう信じて、女性に向き合った。

「アァアアアアアア!!!」

「…もう、怖がらなくていいです」

少しずつベッドに近づいていく。今にもベッドから落ちてしまいそうなほど暴れ続ける女性は、私のことなんて見えていないだろう。