「…ッこっちを見ろよっ!おふくろ!!!」

我慢の限界に達したのか、季龍さんは女性の腕をつかむ。

その瞬間、ピクリと肩を震わせた女性に思わず安堵した。…はずだった。

「ッギャァァァアアアアア!!」

「ッ!!?」

突如叫び出した女性に季龍さんは思わず後ずさる。

季龍さんの手が離れても、女性は落ち着きを取り戻すどころか、まるで自分の声に錯乱するかのように更に奇声を上げた。

さきほどまでの静けさが嘘のように、顔には恐怖が、大きく見開かれた目はそれ以上開いたら落ちてしまうのではないかと不安になるほどむき出されている。

まるで別人。

この人が季龍さんの母親だと認識することはどうしてもできなかった。

「失礼します」

「関原さん、もう大丈夫ですよ」

ぞろぞろと入ってきた看護師に迷いはない。慣れたようにベッドに近づき、女性をなだめている。

それでも、興奮状態が冷めきらない女性は、叫び声を上げ続けている。