「どちら様ですか?」
「…508号室に用がある」
季龍さんの回答に看護士さんは一瞬目を見開く。そして、少しだけ悲しそうに目じりを下げた。
その反応は受付の人と全く同じで、重い石を心に乗せられたようだった。
「どうぞ。院内ではお静かに」
ドアが開かれると、病院特有のにおいに包まれた。ここまででそのにおいがほとんどしなかったからここが病院だってことを忘れていた。
ドアの向こう側に足を踏み入れる。その独特の雰囲気に少しだけ息が詰まった。
「こちらです」
看護師さんが先導してくれて、たどり着いた508号室。そこは個室で、ドアが完全に閉まらないようにドアストッパーがされていた。
季龍さんがドアノブに手をかける。
ふと視線を投げた病室の下。ネームプレートには、関原麻里恵と書かれていた。
「…おふくろ?」
季龍さんの声にハッとする。
ドアを開け、病室に踏み入れると、ベッドに座り、ぼんやりと虚空を見つめる女性がいた。


