「ミー」

「トラ?」

庭の影からひょっこり顔をだしている子ねこに頬が緩むのを感じる。

最近姿を見せていなかったけど、ここを離れてはいなかったんだ。

片手を差し出し、舌を鳴らして呼んでみると、助走をつけて縁側に飛び乗ってきた。…よく見れば、首には赤色の首輪が着けられていて、それについた小さな鈴が小さく鳴った。

「誰に着けてもらったの?…平沢さん、かな」

「ミーミー」

「飼いねこになるの?…ご主人様は、やっぱり平沢さんかな」

頭を撫でてみると、もっとと言うように体を預けてくる。それがかわいくて、子ねこに求められるがままに撫でみた。

…この子をなでる手で、私を守ってくれた手で、平沢さんは源之助さんを撃った。

分かってる。…分かってるはずなのに。

平沢さんに裏切られたような気持ちになるのは、どうして?

自然と子ねこを撫でていた手は止まって、不思議そうな顔をする子ねこにも気づけなかった。