「無駄話はこれくらいにして、婚約会見の進行だが、どうだろう。婚姻届をその場で書くパフォーマンスは」

その言葉には、私たちはもちろん、正裕にも衝撃を与えたようだった。

余裕の笑みを浮かべるのは陣之内総一郎ただ1人。

本当に婚姻を結ぶならば、なんの問題もないだろうという無言の圧力だ。

「ほぉ、面白いことを考えられましたの」

「名案、と言っていただきたいですなぁ。正式な書類に偽名など使われてはこちらも困りますからねぇ」

…気付いてる。彼は、私が宮内琴葉だと確信してる。

さらに追い討ちをかけてくるなんて…。いや、これも計画のうちだったんだろう。そうでなければ、偽名を名乗る、正体不明の者に大切な跡取りの婚約者として迎えるはずがない。