そこで左手に握ったままの何かを思い出して、そっと手を開く。

「あ…」

『必ず迎えに行く。だから、待ってろ』

あの時の指輪だ…。

あの事件で失ってしまった指輪。…季龍さん、また探してきてくれたんだ。

渡されたそれを左手の小指にはめる。

それだけなのに、心がふっと軽くなったような気がした。

指輪を包むように手を握る。大丈夫。季龍さんは、必ず迎えに来てくれる。

これは、その証だから。

顔を上げる。さっきまでの緊張も、不安も、感じない。

終わらせる。もう、過去に縛られて生きるのはこれで最後だ。

見えてきたホテルの駐車場に入っていく車。指輪を握っていた手を離し、待ち構える人々に笑みを向けた。