婚約の打ち合わせに陣之内家に通って早10日目。

準備も最終段階。あと少し。あと少しで終わる。

深呼吸をしていると、目の前に差し出されたUSBメモリに、自然と表情が引き締まる。

「ここちゃん、頼んだよ」

「はい」

受け取ったUSBメモリをスーツの胸ポケットに押し込む。

ドクドクと緊張で張り裂けそうな心臓を落ち着かせようともう一度大きく深呼吸をした。

「琴音」

呼ばれて振り返ると、季龍さんと視線が重なる。

伸ばされた手は、私の短い髪を撫でる。肩につかないほどの髪は、あっという間に季龍さんの手から離れていく。

その髪を見つめる目は、どこか悲しげに見えた。