音の波に溺れかけた時、不意に体が浮く。

『ッ逃がすな!!』

離れていく赤と、暗がり。そして、動かなくなったおばあ様。

最後に見たのは、自分を抱えて走る男の人の顔だった。


『忘れるんだ。…忘れて、どうか、幸せに……』


―――――

「ほぉ、実に美しい髪だ。お名前はなんというのかな?」

急に目の前が明るくなる。

気付いたら見える景色はパーティー会場に戻っていた。

…私、なんでここにいたんだっけ……?

溢れかえった記憶が頭の隅でチラつく。頭のなかを引っ掻き回されているような感覚に考えがまとまらない。

目を閉じかけたとき、ぬくもりに包まれた。

「大丈夫か?」

「…」

おそるおそる顔を上げる。季龍さんの双眸に自分の姿が映る。

……はは、ひどい顔だなぁ。

疲れきった顔に勝手に笑いが込み上げてくる。