電車の中は予想通りぎゅうぎゅう詰めで私はすぐに端へと押されてしまう。

今にも転びそうなぐらい不安定なその中で必死に足を踏ん張りながら人との密着を避けるべく身を縮めた。

次に着く駅の名前に自分の降りる駅のアナウンスが流れ、ようやく電車が目的の駅へと滑り込む。

ーやっと出られる。

その事に気が緩んだ私は、多分本当に馬鹿だ…、電車が完全に停車しドアが開いた瞬間、目の前の視界が勢いよく揺らめいた。

人と人との波の間に挟まれ不安定な状態で駅へと放り出される自分の身体。

当然、バランスなんてとれるはずもなく身体は一気に前傾へ…、

スローモーション状に見える倒れるまでの瞬間に私は何も出来ずにただ目を瞑った。

「ーっ!っぶね…」

しばらくしたら地面に打たれた反動で体に痛みが走ると予想していたことがなかなか起きず不思議に思った私は目を開けた…。

「えっ…。あっ、あの時の…」

後から腕を引っ張られ転ぶ寸前で何とか誰かに助けられたみたいで私はその助けてくれた男の人に抱き抱えられる形になっていた。

まだ抱きかかえられてる状態のまま私は斜め上へと顔を上げると自然と彼の顔が目に入る…、

サラサラの黒髪に、白い肌…、

整った顔はどう見てもあの靴擦れの時に助けてくれた彼で私は大きく目を見開いた。