桃のにおいは、しゅんの胸元から
時々した。

桃、時々、グレープフルーツ。

グレープフルーツは
あたしの好きな香り。
しゅんにあげた香水の香り。

サッカー部の、しゅん。
汗のにおいを気にしていたから
プレゼントしたグレープフルーツ。

部活。
バイト。
しゅんに会えるのは9時頃になる。

あたしもバイトをしてる。
近所のショッピング街のアイスクリーム屋で。
まんまるいアイスをコーンに乗せれるように
やっとなったばかり。

「メイちゃん、チョコミントじゃなくて、チョコバナナだよ」
「ごめんなさい」

あやか先輩に、5回も怒られるドジっ子。

つもりだったのかな。
あたし。

いつもの、ファーストフードの店で9時に待ち合わせした。
「メイ、ごめん待った」
時計を見ると9時半になっていた。
「門限10時なんだから~」
いつものように、口をとがらせて言ってみせた。

「外、出て話そうか」
しゅんは、そう言うと桃のにおいがした。
「いやな話だったら、聞きたくないんだけど」
壊れてしまう。

あたし、壊れてしまう。

答えは、桃のにおいが知っていた。

つもりだったんだね。あたし。

桃のにおいは失恋日和。
怖くなって、逃げ帰ってしまった、あたし。

しゅんの言葉を聞かないまま。