「直樹さんも、もっと楽にしてください。」

不意に呼ばれた懐かしい名前に、俺はつい笑ってしまった。
誉も少し驚いてるみたいだった。

変わらない。12年前と、なにひとつ。

少し嬉しくて、沙夜香の大好きだったローズの紅茶を入れた。

沙夜香は何も気付いていない。
嬉しそうに俺の淹れた紅茶を飲みながら、ただ質問を重ねていく。

俺だと気づいて欲しかった自分がいて、気付いたらどうなるのかを知って、避けている自分がいる。

そうだ。彼女の為には気付かせてはいけない。このままずっとそばにいれるのなら、それ以上に何も望まない。

そんな矢先だった。