あの日以来、彼が出てくる夢は見なくなった。
何週間も。何ヶ月も。

誉とは元通りに仲良く出来て、2人の執事との生活にもだいぶ慣れてきた12月頃だった。

「お邪魔しまーす。」

瑠璃子が屋敷に遊びに来た。もちろんお泊まり会。

朝から2人で買い物に出掛け、誉と約束していた夕食の時間に屋敷に帰ってきたのだ。

「沙夜香!このフルコースを誉さんが作ったっていうの?!」

机に並べられた二人分の食事。それをみて瑠璃子は興奮気味だった。

「すごいでしょう?うちの自慢の執事なんだらか。」

ね!誉さん!と言うふうに沙夜香は誉を見た。
誉は嬉しそうに笑って、瑠璃子を席へ誘導した。

その間に直樹は沙夜香を席に誘導して、ティーカップに紅茶を注いだ。

香りは…

ラベンダー。

「今日も相変わらずいい香りね。」

「でしょう?」

ふふっとわらいながら、少し申し訳なくなる。
普段はローズティーだから。

「んー!美味しい!」

一口食べるごとに瑠璃子は色々な反応をしていく。

「そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。」

誉が笑顔でそう言うと、瑠璃子は満面の笑みで沙夜香を見た。

「私、こんな人と結婚したいわ。」

瑠璃子は満足そうに食べ続ける。

「婚約者の方は、どんな方なの?」

沙夜香は瑠璃子に尋ねた。

普通、お嬢様には生まれながらにして婚約者がいる。1度もあったことがないような方とも、結婚しなければならない。

それが、名家に女として生まれたものの定め。

しかし、沙夜香には婚約者がいなかった。不思議に思って沙夜香はお父さんに聞いてみたこともあったが、笑ってはぐらかされたのだ。

「少し冷たい方よ。あんまり一緒にいても楽しくないの。」

まぁ、仕方ないけどね。と笑う瑠璃子が、沙夜香にはすごいと思えた。