部屋に戻って、お風呂を済ませる。

服を着た頃合を見計らって、部屋には直樹が入ってきた。

「風邪を引かないうちに髪を乾かしましょう。」

鏡台の前に座って、髪に触れられる心地良さに目を閉じる。

「直樹さんって婚約者さんの事、とっても大事にしてそうね。」

目を閉じたまま直樹に話しかける。

直樹は返事に困ったのか、しばらく黙ったままだった。

「沙夜香様は、私に婚約者がいるとお思いですか?」

「まぁ!おかしな事を聞くのね。この前言ってたじゃない。」

沙夜香は笑って直樹を鏡越しに見た。

「そうでしたね。」

直樹は少し困った顔をしていた。

ドライヤーのスイッチが切られて、ベッドに誘導される。

「じゃあ、おやすみなさい。」

沙夜香はベッドに入って、部屋を出ていく直樹に声をかけた。

「おやすみなさいませ。沙夜香様。」

パタンと扉が閉まって、月明かりに照らされる天井を眺めていた。

(今日も夢、見るかしら?)

そんな事を思いながら、沙夜香は眠りについた。