「お嬢様がお望みであればお教え致します。」

聞きなれない口調に沙夜香が怯むのを見て、誉は目線を合わせるように顔を近づけた。

「私でございます。」

パシーン……

乾いた音が部屋に響き渡り、沙夜香は立ち上がって誉を睨んだ。

「冗談はよしてちょうだい。」

沙夜香もいつもとは違う口調で叫んだ。

「彼が…。あの夢の彼が執事なわけないでしょう!」

沙夜香はふと我に返って、目の前の誉の傷ついたような顔に気がついた。
沙夜香は慌ててすぐに謝った。

「ごめんなさいっ…。その、執事が駄目とかそんなんじゃなくて…。」

「いいんだよ。事実だしね。俺こそ冗談言って悪かった。ごめん。」

誉の言葉を聞いてから、沙夜香はその場を逃げるように後にした。