「残念だが、今回は喘息で倒れたんじゃないって柴田さんが言ってた。」

椅子の背もたれに持たれるように深く腰掛けて、直樹の反応を待った。

「じゃあ俺にも分からない。」

直樹は顔を上げずにそのまま答えた。

誉はため息と共に立ち上がってドアノブに手をかけた。

「とりあえず、今日は沙夜香ちゃんの面倒俺が見るから。気付かれたらダメだからな。」

そう言って部屋を出る。そのまま沙夜香の部屋に向かった。

誉は手のつけていない冷たくなったローズティーを片付けようと手を伸ばした。
教科書も開かず、真っ白なままのノート。机の上に無造作に置かれたペン。
そして、誉はその中に見つけた。

小さなメモ…

『茶色い髪。お兄ちゃん。』

「これじゃいつまでたっても分からないままだな。」

誉は小さく呟いて、ローズティーの入ったティーカップを持って部屋を出た。