【短】桜の涙に恋焦がれ


「柳瀬くん。わたしはまだ一歩すら進めていない。会社では約立たずの短大卒」

「それは……」

「ライバル。今はライバルでいて欲しいの」



 悲しそうな表情。その顔は見たことがないかも。



「少しだけ考えさせて。わたし頑張るから。少しだけ時間をちょうだい」

「咲川さん」

「だから、今日はもう戻って」



 結局、遅刻させてしまった。


 あたたかい風が急に吹き、桜と一緒に雨粒がわたしたちに降り注ぐ。
 熱に火照った身体が冷めていくみたいで、ふと冷静になる。



「咲川さん。いつか、返事もらえますか?」

「必ず」



 そう言うと幾分、柳瀬くんは安心したみたいでわたしから離れた。



「じゃあ、しばらくはライバルですか?」

「うん。なんか、ごめんね」

「でもちゃんと考えてくれるんですよね」

「もちろん」



 笑顔で答えれば、柳瀬くんもレアな笑顔で答えてくれる。