「とりあえず、ホテルの部屋に荷物を置いてロビーに集合な」

「宇野くんと待ち合わせしているんだっけ?」

「はい。近くに道の駅があるんで、そこで会おうって話してるんです。市川と御門はとりあえず隠れて待っててくれよな」

「分かった。宇野きっとすっごく驚くね!」


市川さんの声は楽しそうに弾んでいる。

私は、楽しみな気持ちと不安な気持ちが入り交じってる。ずっと会いたかった人に会えるのに、さっき覚えた不安が胸の隅っこに染み付いたまま離れない。


「じゃあ、私と森くんはお先に温泉にでも入ってよーかな」


茶原さんの声も心なしが嬉しそうだ。

みんなの楽しい気持ちに水をさしたくなくて、私は笑顔をつくって、そっと胸を拳で押さえた。

ゴールデンウィークということも会って、ホテルのロビーでミニ縁日が開催されていて、家族連れで賑わっていた。

ホテルの部屋は、和室を2部屋予約していて、男子と女子でそれぞれ分かれた。

部屋に入ると畳の匂いが鼻腔を擽った。なんだ懐かしい匂い。

窓からは見事なオーシャンビューで、どこまでも広がる青い海がきれいで思わず声をあげてしまった。


「ほら、ホテルでゆっくりするのは後にして、早く宇野に会いに行こうよ」

「う、うん」


市川さんに促されて、私達はロビーで待つ高田くんの元へ急いだ。

すでにロビーに来ていた高田くんは、小さな子供達に混ざって、ミニ縁日の水風船釣りをしていた。


「高田ってガキだー」


市川さんは笑いながら高田くんに近づき、彼が見事に釣り上げた赤い水風船をもらって喜んでいる。

付き合い始めたばかりとは思えない仲のいい二人を見ていると微笑ましいのと同時に無性に羨ましくもあった。