キミに嘘を吐く日

「いろは、びしょ濡れだな。風邪引くからほら、タオルで拭きな」

「宇野くんだって!はい、タオル」

タオルをお互いに渡し合って、濡れた髪や服を拭いた。

宇野くんのタオルからは、当たり前だけど宇野くんの家の柔軟剤の香りがした。

うちのとは違う。

……宇野くんの匂い。


「いろはの家の柔軟剤の匂い、俺結構好きだな……」


すん、と鼻を鳴らしてタオルに顔を埋める宇野くんが可愛くて仕方ない。

今日の帰り、宇野くんちと同じ柔軟剤を買って帰ろうと決めた。

イルカのショーの後は、アシカのショーを見てから、スナメリを見に行った。

ここのスナメリはバブルリングを作れると聞いていたから1度見てみたかった。

スナメリの水槽の前に大学生位のカップルがいて、バブルリングを見たくて待っていたみたいだけど結局見られなかったと残念がっている。

流石にこれだけのお客さん全てにサービスしてたら、スナメリだって大変だよねと宇野くんと話しながらスナメリの優雅な泳ぎを眺めていた。

何度か目の前を通るスナメリを目で追って、スマホを構えた宇野くんに促されるまま、視線は宇野くんのスマホに向けた。

パシャリとシャッター音が聞こえて、宇野くんがスマホの写真を確認して短く声を上げた。


「いろは、ほら!見て!」


興奮した様子の宇野くんの手の中にあるスマホに目を向けると、そこには宇野くんと私の間でバブルリングを作るスナメリの愛らしい姿があった。


「宇野くん、すごい!」

「だろ?すっげラッキーだよな」

うん。すごい幸運だ。

宇野くんと初めて一緒に来た水族館で、ずっと見てみたかったスナメリのバブルリングが見ることができた。

そしてそれを写真におさめることまでできるなんて……本当に奇跡みたいな幸運だ。