「お前本当に性格変わったよな」
宙が俺の胸ぐらを掴んだ。
「ちょっ!」
姫莉が止めようとしたが、周りを見て身を引いた。
そして、周りの様子に困惑していた。
周りは、誰一人として俺逹を見ていなかったからだ。

依恋でさえ、黙々と黒い花を触っていた。
黒い薔薇の花弁をひたすら千切っていた。
千切られた花弁は何処か悲しげに依恋の周りに散っていた。

「変わった?俺の性格」
「ああ。この眼鏡を掛けた時から、マジ可笑しいぞ、お前」
宙は空いている右手で、俺の掛けていた眼鏡を外す。
外された眼鏡は高々と舞い、そして地に落ちた。
それを宙が足で踏み付ける。
勿論、レンズは割れてしまった。
伊達眼鏡とは言えど、レンズが無いのを付けるのは、流石に抵抗がある。
しかも、この眼鏡は貰い物。

もう、眼鏡は今が止め時か。

「確かに、眼鏡を付けてから性格が変わったかもしれない。これからは止めるよ」
「ああ」
今まで俺を酷く睨み付けていた宙の瞳が、ふと優しくなった。
「あの事を言ったのも、ごめん」
すまなさそうに宙を見ると、
「おう」
と返され、掴まれていた胸ぐらも自由になった。
「誰にだって間違いはある」
宙はそう言って、無邪気な子供の様な笑顔を零した。

そこで、放課後を知らせる鐘が鳴った。
「姫莉、帰ろ」
「あ、うん」
姫莉は返事をし、椅子に置いてある俺の鞄と自分の鞄を取って来る。

「じゃあね、依恋。また明日ね。」
姫莉がそう依恋に言った時、依恋はもう既に眠っていた。
黒い薔薇の花弁をシーツにして、身体を少し丸めて寝ていた。
折り畳まれた依恋の足は、以前よりも細くなっている様に感じた。

黒い薔薇の花弁のシーツに横たわる少女は、まさに美少女だった。