静かで薄暗い廊下に不釣り合いな声が響く。
こんな時間、こんな場所でこんな声を掛けてくる相手に心当たりが無い。
が、こんな時間、こんな場所にいるのも私くらいのもの。
数秒、ためらった後声の方へ視線を移す。
頭はまだ眠気を引きずっている。
声の主の顔を見るとも無く眺める。
眠気でいまいち集中出来ないが、視線で用件を促す。

「俺、“ーー”。一緒に生徒会やらない?」

会話の内容をふわりと消化する。

(名前、なんて言ったっけ?…まぁ、いいか)

「…やらないよ」

頭の眠気を追い払いながら会話相手と向き合う。

「それだけ?」

相手の返事を聞くこと無く用件は済んだと判断する。
窓に向かい直して月を探していると、

「一瀬美月!」

廊下の奥まで声が響き、反響する。

「俺を見ろ」

私が振り返る頃には、顔を両手で挟まれ視界は“誰か”で埋まっていた。
窓の外の小鳥のさえずりがやけに大きく聞こえる。
会話相手を見つつも雰囲気で話してきた私は、少し動揺していた。
私の視界に、今はしっかりと彼が写っていた。
ふわふわした柔らかそうな髪も、真剣な茶色の瞳も、すっと通った鼻も。
見惚れるほどに整った綺麗な顔が、しっかりと私の目に写っている。