「英国の月は、暁に映る恋に溺れる」

”高校の同級生”だという充見先生の死を知ったマリさん......。

三間さんから受け取った電話の際に、おそらくあの瞬間に充見先生の訃報を知ったのだろうと分かるくらいに、一瞬にして声色を変化させて全身に緊迫感を充満させていた。

だけど、そういう様子になったのは何もマリさんが充見先生と特別な間柄だったからというわけでは決してないはず。

充見先生を知る人ならきっと多くの人がマリさんと同じように、先生の突然の訃報に接して卒倒しそうなほどの強い衝撃と哀惜の念を抱くに違いない。

そう思うと......マリさんが今どれ程の心境でいるのかは察するに余り有る。

マリさんの口から充見先生とは高校の同級生だと聞いたことはない。

「僕が同級生だって言ってたこと、マリには内緒にしておいてください。僕のこと覚えてなかったら恥ずかしいので......」

冗談のような本心のような、この時の充見先生の表情は曖昧すぎる笑みをたたえていてどう返事をしたらいいのか迷った。

結局、私は先生の言いつけを忠実に守り、マリさんに真相を確かめることなく今日に至った......。

「.......大丈夫か?」

唐突に聞こえた声で、私は充見先生との思い出の中から現実に引き戻された。

「......はい。伊原さんも......」

「ああ......。信じられないよ」

肩を落として眉根を寄せ、遠くを仰ぐ伊原さんから感じられたのは途方も無い絶望だった。

誰でもこんな事態の時は一旦、周りの状況なんて目に入るはずもないのに、それでも伊原さんはどういうわけか視界の片隅に入った私を気にかけてくれて声をかけてくれた。

本当は彼こそ、充見先生とは旧知の仲でこの度の訃報に深く哀惜しているはずなのに......。

マリさんの事とは逆に、充見先生の口から伊原さんと高校の同級生だと聞いたことはなく、伊原さんの方から充見先生とは高校の同級生だと聞いた。

その事実を充見先生に確かめたことはない。

だけど、きっと本当のことだと私は確信している。

充見先生の名前を口にした時の伊原さんは、いつもと同じように誠実だった。

それに何よりも。切ないけれど充見先生の訃報を受けての今の伊原さんの様子を見ると、私が思っていたよりもはるかに先生と親しかったことを物語っている。

伊原さんは普段の明朗で俊敏な振る舞いがなくなり、今はただ私のすぐ隣で厳しい表情をして窓の外を見つめていた......。

「......ひどい雨だな」