『安住さん』
「はい」
『行ってきます』
「行ってらっしゃい…?」
西条先生はまた笑っている。
なんなんだ、このやり取りは。
ようやく通話を終えた受話器を持ったまま、しばらくその場から動けなかった。
西条先生の言う通り、私の顔は真っ赤になっている。
心臓がドキドキと鳴り、脈拍ははやい。
西条先生の声はなんだか聴き心地が良かった。
これまで何度も仕事で会ったり、電話だってしたこともあるのに。
「さっき、『俺』って言ってた。いつも『私』なのに…」
胸がドキンとなった。
「とにかく、スマホが無事で良かった」
うんうんと頷いて、週末の家事に取りかかった。