中嶋先生夫妻の助けを借りて話しをしてから、佳苗との関係は少しずつ進んでいた。


仕事での張り詰めた感じも無くなり、大分以前のように穏やかにしっかりと仕事をこなす佳苗を見守りながら、俺も仕事をこなしていた。


「ふふ、先生は佳苗ちゃんが好きなのね。頑張らないと、島の若いのに取られちゃうわよ?」


そう穏やかに話してくれるのは患者のフキさん。
御歳九十五歳の島の最高齢のお婆ちゃんだ。


足腰は弱ってきているものの、まだまだしっかりとした方で、隠してもいない俺の気持ちは周囲にはタダ漏れである。


「佳苗ちゃんとは、少しなにかあったのよね? そこをお互いに超えないと、佳苗ちゃんは先生の所には行かないわよ? 頑張りなさいな、お若いの」


ニコニコと言うが、その言葉はずしりと響いた。
昔なにかあった事を知るのは中嶋先生夫妻のみ。
他には話していない。
それをここ数ヶ月様子を見ていただけで見抜かれていたとは。
驚きの目を向けると、フキさんは穏やかに微笑んでいる。


「私も無駄に年老いたわけではないのよ? 人の気持ちを見る余裕くらいあるわ。亀の甲より年の功っていうでしょう?」


人生の先輩には適わない。
俺は苦笑しつつ、告げたのだった。


「フキさんには勝てませんね。なんとか彼女の気持ちを取り戻すべく、努力の最中ですよ」


「そうなのね。頑張りなさいな」


フキさんの優しい笑顔に励まされた。