「西澤先生、佳苗ちゃん、お疲れ様。今お夕飯出来たところよ! ダイニングの方に来てちょうだい」
キッチンからひょこっと顔を出した梅乃さんに言われる。
「分かりました」
西澤先生も来たことがあるのか、迷わずに歩いていく。
私はお手伝いのために、先生にはついていかずにキッチンへと向かった。
「梅乃さん、料理運ぶの手伝います」
そう声をかければ、梅乃さんはニコッといつもの笑顔で言う。
「助かるわ! 佳苗ちゃん、これ持ってって」
渡されたのは生わかめのサラダとカツオのたたき。
「はい、持っていきますね! ほかのも無理しないでくださいね」
そうしてダイニングに行けば、先生同士が向かい合って今日の患者さんのことについて話している。
その顔は今日は急患なども無かったからか、穏やかに互いの患者の経過や様子を共有しているようだった。
その表情は職場ではないからか、少し柔らかい。
仕事の時よりは気を抜いているのだろう。
その表情は昔、私の家に来た時に見せていた顔に近い。
ここが落ち着くということだろうか。
元々はあまり人に心を開かない、警戒心の強いタイプだったはずだ。
前の病院では跡継ぎの医師として、擦り寄られたり、かと思えばイヤミを言われたりと複雑そうだったから。
たまに院内で見かけた先生は疲れた顔をしていることが多かったと、今になって思いだす。



