ひっそりと、そんな関係を終わらせてきた。


今更会うところで、なにか起こるわけもない。


そもそも、終わらせたと言うより何も始まっていなかったのだ。
彼にとってただの都合のいい女、私はそんな女だったのだから。


今度は、そうはならない。


もう、私は恋はしないと決めているのだから。


そうして迎えた九月の初旬。
私は五年ぶりに彼と会うことになった。


彼は相変わらずスマートで身のこなしに品のある、そんな落ち着いた大人の男だった。


心做しか歳の数だけそこかしこに少しシワが見て取れるものの、未だに若々しさを失っていない。


もうアラフォーなのにな。
ちっともカッコ良さは損なわれてないうえに、歳相応の渋みまで出始めるなんて。
ちょっと、ずるいんじゃないの? と思ってしまうも顔には出さない。


「今日からお世話になります。西澤透悟です。よろしくお願いします」


昔よりあたりの柔らかくなった声を聞きながら遠くを見るように眺めてしまったが、そろそろ朝の診察開始だ。


「よろしくお願いします」


そう簡単に返すと私はそのまま朝の支度に取り掛かり、透悟さんの前を離れたのだった。


その私の背中を切なく悲しげに、でも愛しさを隠さない目が見つめていた事に、私が気づくことはないのだった。