夏の終わりにもなる、八月の末。


私は先生夫妻にお呼ばれして、お宅にお邪魔していた。
そこで、私は五年ぶりに彼の名前を聞くことになった。


「佳苗ちゃん、我々もそろそろ歳だ。まだ引退は数年先と思っているが、そろそろ先を見越して若い医師を迎える事にしたよ」


そう言う先生は、まだまだ指示も的確で見た目も動きも若いと感じる。


しかしそんなたった一人の医師である先生も、実はそろそろ年金を貰う世代である。
確かに、先生の世代は世間で言う第二の退職時期になる。
医師である、先生の言うことは最もだった。


「我々の住まいはこの島だから、引退しても力にはなる。しかし、人間老いには勝てん」


そう話す先生に私はこくりと頷き、続きを待った。


「僕も体力的に、そろそろ厳しい。そこで離島医療を、ここに根を張り全うできそうな医師をここ数年探し続けていたんだ。今年、やっと見つかってね。後任として引き継ぐためにも、来月から来てもらうことになったよ」


今回私を呼んだのは、その医師と今後私で患者さんを診ていくためだろう。
しかし、忙しかったとはいえ話す時期がいつもの先生の感覚からして遅いと感じる。
なにかある? と思った矢先に先生から告げられた名前に私の動きはピタッと止まった。