近藤咲良は壊したステンレスボトルの代わりに買ったものを会社帰りに手渡そうと事前にメールしていた。

立花樹里はこんなに早く弁償してもらえるとは思っていなかったので、恐縮して丁寧にお礼を述べた。

ビルの階下にあるカフェは朝と昼間は混むが、終業時のこの時間帯は誰もが急ぎ足で帰途につき店内はガラガラだった。

「18階におります。」

「そうだったんだ。俺も朝早いから駅で見かけるよ。」

「そうでしたか。」

「今度昼でもどうかな?」

「申し訳ありません。お昼は離席できないのです。」

「残念。そうか、じゃ別の日に帰り食事できるかな?」

「いえ、こうしてボトルをいただきましたのでお気遣いないようにお願いします。」

「う~ん、そういう意味じゃなかったんだけどね。」

「はあ?」

咲良は樹里とかみ合わない会話に途方に暮れ、どこかしら心がここにないような彼女に次に何を言ったらいいのか迷った。

「では、私は失礼させていただきます。ありがとうございました。」

「あっ、ちょっと、立花さん、待って。」

コートとバッグを持ち、ぺこりと頭を下げて立ち去る彼女を追った。

「駅まで行こう。」

「私はあちらから行きますので。」

「朝と違うの?」

「はい。」

「じゃ、そこまで送るよ。」

「近藤さんが遠回りになるのではないでしょうか。」

「大丈夫。まだ早い時間だしね。」