樹里は社長に言われた「恋人はいるかね?」というフレーズに頭を悩ませていた。

いつかは結婚といった余りにもすべてに不明瞭な将来に漠然とした不安もあった。

一生独身でいたいという願望もなく、ただただ仕事をこなす日々のみが現実であることをかみしめた。

「多田さんは私のことが好きなのかしら。」

好きという言葉は何やら甘いフィーリングが胸の中に漂うようで、自分の中にある乾いた部分が潤っていくような感じがしないでもない。

それは今まで学生時代に経験してきた先輩への憧れとか、同じクラスの男子に対する自分の想いとは違い、相手に好意を持たれるという受動的な未知の感覚であった。