樹里は今朝から復帰された社長のデスクの傍らに立ち、スケジュールを読み上げていた。

「ですので、本日から接待は極力控えさせていただくようにとの旨です。」

「立花くん。」

「はい。」

「君には恋人はいるかね?」

「い、いえ。おりません。」

樹里は社長の唐突な質問に戸惑った。

今日のスケジュールに何の関係があるのだろうか。

「プライベートなことになるが、私には隠さなくてもいいよ。」

「いえ、本当にいないのです。」

「まあ、そういうことにしておこうか。」

「あの、どうしてですか?」

「君はしっかり者だから、どうかなと思ってね。」

「どうかな、とは何でしょうか?」

「実は紹介したい者がいるんだよ。」

「それは結婚を前提に、とのことでしょうか?」

「いや、はっきりそうとは言えないがね。」

「あの、大変申し訳ございませんが、私はまだ結婚は考えておりません。」

「全然構わないことだから、仕事は続けてもらっていいんだ。」

「ですが、こういうことはご紹介いただく前にお伝えしておきたいです。」

「やはり君はしっかり者だ。これで私の目が確かなことが証明されたよ。」

アッハッハッハ。

樹里は社長の高笑いに少々面食らった。

自分の控室に戻り、先程社長に言われたことを思い返した。

恋人はいるかね?

恋人とはお互いに想っている者同士のことを差す。

恋愛経験に疎い樹里は今まで本気の想いなど持ったことがなかった。

人に紹介された相手と恋愛ができるのか全く想像できなかった。