近藤咲良(さくら)はコンビニの前でスマホを見ながら同僚の松田慎二を待った。

「買ってきた。」

慎二は熱いコーヒーカップをコートの胸の前で掲げて咲良に声をかけた。

「ほら、来た。」

慎二はもう一度カップを持ち上げた。

二人は目の前をスタスタと通り過ぎるOLの背中を見送った。

「あれはヤバい。」

「だろ。」

「着やせタイプってヤバいよな。」

「あの細い腰であの揺れはあり得ない。」

「ムチムチか。」

「おまえ、朝からやめろよ。」

咲良は慎二と歩きながらそのOLの後ろ姿をスマホで狙った。

「撮ったのか?」

「バッチリ。」

「ビョーキだな。」

「どっちがだよ。」

「だけど、どうしてあんな歩き方ができるんだ?」

「言えてる。」

「目立たないような控え目な歩き方っていうか。」

「あんな風に歩かれたら人混みだとわからない。」

「だな。」

咲良と慎二の回りには他にも多くの人が歩いていた。

高さのあるヒールで大股にさっそうと歩く女や

コートの前を半開きにしフレグランスをむんむんさせている女がいるかと思えば

がっしりとした足でズンズン突き進む女もいた。

大きいストールを肩に羽織っているのは目にするだけで実に窮屈そうだ。

あれで本当に暖かいのだろうかと疑ってしまう。

様々なスタイルのOLがそれぞれのオフィスを目指していた。

その中でスラリとした若いサラリーマンである咲良と慎二はかなり目立った。

彼らをチラ見しつつ後ろから続くOL達の足音がいつも通り複数乱れたのは言うまでもない。

しかしながらどんなにイケメンであろうと中身は所詮普通の男であることを

夢見がちな若いOL達はまったく理解しようとしないのである。