そのときだった。

凪沙の指がぴくりと動いた。

俺はすぐに凪沙の顔を見た。

瞼がぴくぴくと動いて、細く開いた。

隙間からその瞳が俺を見つけて、少しだけ微笑んだのが分かった。


やった、助かったんだ、と思った。

俺は手を握りしめて、凪沙、凪沙、と呼んだ。

すると、凪沙の唇が少しだけ開いた。

でも声は聞こえない。

顔を寄せると、凪沙は吐息のような声で、ごめん、と言った。


嘘をついたことを謝っているのだと思ったから、俺は必死に首を横に振った。

凪沙はまた少し笑って、今度は吐息だけで、だいすき、と言った。

俺も、と答えた。

すると凪沙はなぜか悲しそうに眉を寄せた。

俺は凪沙に覆い被さり、ぎゅっと抱きしめた。

ほっ、と安堵したような吐息が俺の耳許で震えた。

怖いくらいに冷たい身体を、自分の体温で温めてやりたくて、しがみつくようにすがりつくように抱きしめた。

しばらくして凪沙が、声にならない声で言った。

ごめん、うそ、わすれて。


――それが凪沙の最後の言葉だった。