黒田くんはさらに私にも笑みを向け、

「日下さんもおはよう」

と挨拶をしてくれた。

自転車から降りて彼と並びながら、私は「うん、おはよ」と返した。

「優海、今日英語の長文読解の宿題提出日だけど、持ってきたか?」
「あったりめーだろ」
「おっ、偉い偉い」

黒田くんに頭をくしゃくしゃと撫でられて、優海は「へへっ」と嬉しそうに笑う。

野球部らしいさっぱりとした短髪で背が高く、落ち着いた雰囲気の彼とは、優海が少年野球をしていた頃に交流試合で知り合ったらしい。

そこで気が合って、よく遊びに行っていた。

小中は違う学校だったので、優海が訳あって野球をやめてしまってからは疎遠になっていたけれど、偶然同じ高校に進学して再会することができて、しかも同じクラスになり、優海は本当に嬉しそうだった。

『親友なんだー』と優海は言っていたけれど、私から見ると親友というよりは、黒田くんが飼い主で、優海はよく懐いている子犬という感じだ。

いじけそうだから言わないけれど。

黒田くんに褒められて満足げな優海を見ていて、ふと気になって記憶を遡ってみる。

伸びきって切れかけた長い糸をたぐりよせるように。

『今日』の前、『昨日』は……どんな一日だったっけ。そうだ、たしか夜に優海と電話をしたはずだ。そして、その時に――。