しばらくじいっと私を見ていた優海が、ごそごそと身じろぎして、ポケットから何かを取り出した。

透明の小さなアクリルケースだ。

中には、桜色のかけらが入っている。

「実は俺も持ってきてたんだ」

私は瞬いてからゆっくりと身を起こし、砂の上に座った。

優海も起き上がって私に寄り添い、ケースを開けた。

右手でピンク色の貝殻のかたわれを取り出し、左手の指先で私のネックレスの貝殻をそっとつまむ。

ふたつを近づけ、そっと合わせると、ぴったりと重なり合った。

「――この前さあ、古典の授業で、貝合わせって習ったじゃん」

唐突に優海がそんなことを言うので、私は貝殻から目をあげた。

「平安時代だっけ? 貴族のお姫様の遊び。貝殻の裏に源氏物語の絵が描いてあるやつがたくさんあって、同じ絵が描いてあって重ねたらぴったり合わさるペアを探すってやつ。凪沙、覚えてる?」

「覚えてるけど……。どうしたの、優海が勉強の話するなんて。しかも、古典で習ったこと、そんな細かいところまで覚えてるの?」

優海らしくない言葉に、失礼を承知で驚いてしまう。

すると彼は照れたように笑って、

「凪沙と俺みたいだなって思ったから、すげー感動して。だから覚えてた」

「貝合わせが私と優海みたいって? どういう意味?」

首をひねって訊ねると、優海は桜貝を離したり重ねたりしながら答えた。