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 小さい頃から、優しさは得だと教わってきた。

本当にそうだと思う。

けれど、その優しさが時に仇を為すものだと気づいたのも幼い頃だ。

ある日を境に、自分の未来に選択肢がないことに気づいた。

今から10年前、私が八歳だった頃のことだ。

私こと高崎 羽音は、今では親友となった高尾 霧火(たかお きりか)と公園で遊んでいた。

最初に“それ”を見つけたのは霧火だ。


「羽音ちゃん、あれ何だろう?」


当時の私には何のことを指しているのか分からなかった。
少し離れた茂みを指差して言った霧火に首を傾げてみせると、彼女は不思議そうな顔をして茂みに走り寄って何かを抱えて戻ってきた。


「ほら、この子。何かキラキラ光って見えたけど、気のせいかしら」


霧火の腕の中を見ると、“それ”は猫の姿をしていた。

だが、何の違和感もないかと言えば違った。


「目、不思議な色だねぇ」

「紫の目なんて、あんまり見ないけれど。それにこの子、毛並みが金色よ」


この頃の私はあまりにも馬鹿で、目以外に普通とは違う点を見つけられなかった。


「ホントだぁ、すごいねぇ」

「ねえ羽音ちゃん。この子怪我してるわ」


霧火は注意深く猫を観察していたようで、足の辺りを眺めて悲しそうにそう言った。


「どうしよう、はのん獣医さんなんて知らない…」

「霧火のお家に一度連れていくわ。もしかしたら今日、お医者様が来てるかも」

「そっか、手当ては上手だよねぇきっと」


霧火は超はつかないけれど近所では有名なお洒落なマンションに住んでいる上流家庭の娘だった。

だからこのときは疑いもしなかったのだが、現状は違った。