過去何回も泣いてきた私は、どのくらい経ったら目元に涙が現れてくるのかわかる。 だから、目元に涙がくる前に言った。 「ごめん、ちょっと急用入ったから先帰るね!」 ちょっと声を高くすれば、それは明るく聞こえる。 私はこのとき程、自分の声を好きになったことはないと思う。 河北から目を背けたときには、もう涙が溜まり始めていた。 「あ、梨亜ちゃ」 河北の声も聞かず、私は廊下を走った。