「真は納得してねぇだろう」

 眼鏡の奥から覗く冷ややかな眼差し。整った顔には何の表情も浮かんで見えない。

「・・・・・・そうだね」

 あっさり認めたあたしを、仁兄は訝し気に見やった。何の話をしに来たんだとでも言いたげに。

「さっきまで遊佐といたの。ちゃんと話したんだけどね・・・。仁兄と結婚しろって引いてくれなかった」

「・・・で? 今度は俺のところか」

 缶を手にひと口。

「俺が退くとでも?」 

「あたしがどんなにお願いしても?」

 視線がぶつかり、あたしと仁兄は無言で見つめ合った。
 昔から仁兄は、嫌そうにしてもあたしのお願いを聞いてくれないコトって無かった。少なくても。あたしの意思を無視して無理やり結婚する人じゃない。そこに賭けてみたかった。

「宮子」

 口を開いた仁兄がすっと目を細める。

「・・・聞けねぇ話だ」

「なんで?」

 あたしも冷静だった。もうここまで来ると失うものも無くて、怖くなくなるらしい。

「そんなにあたしと結婚したいの? そんなに臼井の名前が欲しい?」

 仁兄は野心家だって聴いた。あたしと結婚すれば、一ツ橋組での地位は確実だ。弟想いの愛情も二の次かも知れない。口早に言い放った。

「悪いけど、あたしは愛の無い結婚なんて尚更しないから」