「いつかあんたが、自分から身を引くようなこと言い出す気がしてた・・・。あんたの性格はよく分かってるから・・・そういう男だってコトも、いつだってあたしと家のことを考えてくれてるってコトも」

 遊佐は寄り添うあたしを受け止めたまま、黙って聴いてた。

「・・・仁兄にも言われたよ。あたしを守れないで苦しいのは真だから、解放してやれって。・・・遊佐の為を想うならって」

 あたしは込み上げてくるものを堪えて、息を吐く。

「・・・・・・仁兄と結婚すれば、これ以上あんたを傷だらけにしなくて済む。あんたを楽にしてあげられるって・・・あたしが一番分かってるんだけどね」


 遊佐が貫こうとしてるもの。
 あたしが貫きたいもの。
 どっちかが折れるか、曲がるか。

 貫きとおすか。
 
 
 不意に織江さんが思い浮かんだ。あんな風に相澤さんに道連れにしてもらえる彼女が羨ましい。相澤さんに全てを委ねられる生き方が。
 遊佐なら絶対あたしを追い返す。笑って、オマエは来るなって。地獄行きなんかオレ一人で十分だ、って。

 自分はどうなってもあたしだけは。・・・って。 

 遊佐。そうじゃないの、なんで分かってくれないの。
 
「・・・あたしは、あんたを引き摺ってでも一緒にいたいの。あんたの傍でなら笑って死ねるの。このさき何があっても」

 祈るような思いだった。

「・・・あたしの幸せは、何の苦労もしないことじゃないよ。守られてさえいれば幸せだなんて・・・思えるわけないよ。あたしを愛してるなら、仁兄と結婚しろなんて言わないでよ・・・。あたしだって」

 織江さんの言葉が過ぎる。

「遊佐と離れて生きられるほど強くないんだよ・・・」 

 僅かに。あたしの肩を抱く遊佐の指先に力が籠った。

 ほんのちょっとでもいい、届いて。
 今はそれだけでいい。何度だってあたしは伝えるから。
 おばあちゃんになるまでだってずっと。あんたにだけ。

「・・・・・・他の誰とも結婚はしないわ。あんたが嫌がっても・・・一生プロポーズし続けて、首を縦に振るまで傍にいる。あたしには遊佐だけだから。・・・あんたの代わりには誰もならないから」

 胸の内で大きく。息を逃した。
 遊佐の方にそっと顔を向けると、こっちに傾いた視線と合う。見つめ返しながら。 

「結婚して遊佐。あたしを幸せに出来るのは、あんただけなの」