電話の用件が何だったかと言えば。

『織江の非礼の詫びも兼ねて、食事にお付き合い願えませんか』

なんて、天にも昇るようなお誘い。今日これから七時には迎えに来るって緊急事態が発生中。さすがにファミレスは無いだろうから、それなりの恰好しないと!

いちおう遊佐にも相澤さんに誘われたことをラインで報告。『浮気すんなよ』って冗談なのか本気なのかすぐに返信が返った。

ボートネックのシフォンブラウスにタイト目な濃色のスカート。黒のストッキングで清楚な感じに。首元には榊から誕生日プレゼントにもらったネックレス。 

ほぼ時間通りにマンション前に停まった白の高級車。もちろん運転手付き。藤さんが迎えに来るもんだとばかり思ってたから、心の準備が全く出来てなかった。後部シートにまさかの相澤さんと隣り合って座るっていう、もっと緊急事態には。

「・・・突然で申し訳ない」

淡い笑みを浮かべる相澤さんは、きっちり三つ揃いのグレーのスーツ姿で。白いシャツにパステルグリーンのネクタイっていう珍しい色を合わせてた。

見惚れて目が釘付けになるのをどうにか引き剥がし、平静を装って微笑み返す。

「大丈夫です、予定もなかったですし・・・」

「織江や子供達とまた会ってやってくれませんか。・・・今夜は一ツ橋のお嬢さんとの会食なので外させました」

一ツ橋の。相澤さんは敢えてそう言ったように聴こえた。組を継ぐわけでもない小娘に、三の組の若頭代理が敬意を払ってくれてるって、そういう意味だ。

浮かれ気分が引き締まって。あたしはシートにもたれた背筋をすっと伸ばしたのだった。