織江さんに手を引かれてエレベーターを降り、地下駐車場に直結してるオートロック式のドアを抜けると。黒のセレナが目の前に停車してた。そこに。
 車に身体を預けるようにして、普段着の恰好した遊佐が松葉杖を片手に立ってた。
 あたしはもう泣きそうだったと思う。

「ナニ勝手にお宅訪問してんの、オマエ」

 遊佐が言って、しょうがねーなって、いつもの顔で少し笑った時。

 頭で何か考える前に躰が動いた。衝動って言ってもいい。
 駆け寄って胸元にすがりついてた。
 言葉にならない感情が後から後から溢れ返って。悲しいでも悔しいでも、嬉しいでもなく。ただ。

「・・・・・・・・・会いた、かった・・・ッッ・・・」

 Tシャツをぎゅっと握りしめて、どこにも遊佐を逃がさないように。
 二度と離したくないって。

 昂ぶって込み上げる。
 まだ出るのかってくらい止まらない涙。


 ああダメだ、・・・こんなにも。
 愛しくて愛しくて愛しくて。

 そこにいるだけじゃダメなの。愛されてたって。
 触れられもしないなら。

 守ってくれたって愛し合えないなら。

 意味がない、この先の人生ぜんぶ。 


「・・・ん」

 オレも。
 呟きが聴こえた。聞き逃しそうに微かな声で。

 片手であたしをやんわり抱き込み、頭の天辺に口付けが落ちる。

「ほら宮子、ちゃんと挨拶しなきゃだろ・・・?」

 あやすように。こんな時でも遊佐はオトナ。
 あたしは手の甲で涙を拭うと、深呼吸して織江さん達に向き直った。

「・・・・・・すみません。見苦しいトコ見せちゃいました」

 無理やり笑ってお辞儀する。

「宮子がお邪魔しました。・・・相澤代理にも宜しくお伝えください」

 隣りの遊佐も軽く頭を下げた。

「藤代さんも、たまには本部に顔出してくださいよ」

「・・・ああいうのは好きじゃない」

 相変わらず素っ気なく、藤さんは肩を竦めてた。

「宮子さん」

 織江さんが一歩前に出て、あたしに優しく笑いかける。

「次は子供達も一緒にお待ちしてますね」

「はい・・・ぜひ」

 それから織江さんは口許に淡い笑みを称えながら、真っ直ぐな視線を遊佐に傾け、唐突に言った。

「・・・遊佐さんは、峰(みね)さんをご存知ですか?」