それから。お互いに家族の他愛のない話を少しして。十一時を回った頃、お暇することにした。
 藤さんが送ってくれると言うので、お言葉に甘えさせてもらう。


「遅くまでお邪魔しちゃって、すみません。織江さんと話が出来て本当に良かったです。ありがとうございました」

 玄関先で、あたしは織江さんにお礼を言って頭を下げた。

 連絡先も交換して、ラインも電話もいつでも構わないって言ってくれた。これからは友達だからって。
 しかも何故か、藤さんの連絡先もオマケでついてきた。織江さん曰く『アラジンのランプの精だと思って』いいそうだけど。そんな使い方したら本人に呪われる。おそらく。

「今度は渉さんも居る時に、また遊びに来てくださいね」

「いえ・・・っ、あんなカッコイイ人が間近にいたら、たぶん心臓止まっちゃいます!」

 反射的に拒否。
 織江さんは一瞬きょとんして、可笑しそうに小さく吹き出した。

「宮子さんが褒めてたって、渉さんには伝えておきますね。子供達の前だと、ただの大甘なパパなんですけど」

 大甘・・・・・・。一ツ橋の虎徹が? ちょっと複雑、ファンとして。

「じゃあ・・・藤君、宮子さんをお願いします」

「ああ・・・ちょっと待って」

 織江さんが声を掛けた時。バイブの音がして、藤さんがパンツの後ろポケットからスマホを取り出し、耳に当てた。 
 後ろを向き短く二、三のやり取りをした後、半身振り返ってこっちに向く。

「宮子お嬢さん・・・迎えです」

 想定外の展開だったから。目が点になって、誰がって思ったけど。すぐに答えに辿り着く。気が利くユキちゃんが連絡しといてくれたんだ、きっと。

「榊ですよね?」

「・・・いや遊佐の若(わか)だけど」


 思わず。力が抜けて、手にしてたバッグがすとん、と下に落ちた。
 まさか。と思った。
 遊佐が来るハズない。だって。あれから何も、・・・なんにも話してない。会ってさえないのに・・・?

「宮子さん」

 織江さんの真顔が目の前にあった。放心状態のあたしの手を取り、力を込めて強く握りしめる。

「・・・大丈夫。心配して来てくれた彼を信じてあげないと」


 自分も下まで見送ると、三人でエレベーターに乗り込んだ。
 降りるまでの間もずっと手を握ったまま織江さんは、不安げなあたしに微笑みかけてくれる。

「宮子さんを守るのは自分だっていう約束が、嘘じゃないって遊佐さんは伝えに来たんだと、わたしは思います。宮子さんを愛していることに変わりはないんですもの」

 そして力強い眼差しで見つめた。

「諦めちゃ駄目です。・・・宮子さんも真っ直ぐに想いを伝えて? 今は無理でも彼は分かってくれる。そういう人だって思うんです」