やっと着いたのは。土地勘がほとんどない街の、とある高層マンションだった。
 地下駐車場に滑り込ませた車から降り、先導されてエレベーターで14階まで上がる。突き当たりのドアの前で立ち止まり、インターホンを鳴らすと。柔らかい声が返ってドアが開き、ウェーブがかった髪をハーフアップにした、優しそうな顔立ちの美人さんが笑顔で迎えてくれた。

「お帰りなさい、藤(ふじ)君」

「ああ。・・・こっちが本家の宮子お嬢さん。あとは任せる」

 そう短く紹介した彼はさっさと家の中に入って行き、取り残されたあたしに、奥さんが「どうぞ入ってください」と微笑んで招いてくれた。


 モデルルームみたいにインテリアが配置された、センスの良いリビングは。お子さんがいるとは思えないくらい、きちんと整頓が行き届いてて。
 奥さんとソファに向かい合って座って、あらためてお互いを自己紹介する。

「・・・あの、臼井宮子と申します。一ツ橋組本家の組長があたしの父です。夜分に突然お邪魔してしまって本当にすみません。なんて言うか、成り行きでこうなっちゃいまして・・・・・・」

 自分で説明しながら、もうお詫びしか言いようがない。

「相澤織江(あいざわ おりえ)です。主人の仕事のことはわたしは分からないですけど・・・、こうして遊びに来ていただけるなんて、とても嬉しいです」

 織江さんの笑顔は包み込むみたいに優しくて。ひどくホッとした。

「まして藤君が連れて来てくれるなんて、明日は雪かも」

 クスクスと。

「・・・煩いよ、結城(ゆうき)」

 ちょうどトレイにティーカップを乗せてやって来た弟さんと、気安い会話を交わしてる。
 彼がキッチンに消えてから、つい気になって訊いてみた。

「あのさっき、ユウキって・・・?」

 ああ、と笑みをほころばせる彼女。

「わたしの旧姓なんです。下の名前で呼ぶのは嫌みたいで、そのままずっと。お喋りも苦手な方だから、いつもあんな感じで・・・厳しいですけど優しいんです」

「ユキちゃん、・・・あ、弟さんのお兄さん・・・とはちょっと雰囲気違う感じですよね」

「そうなんですか? 雪緒さんと電話ではお話したことがあるんですけど、お会いしたことは無くて」

「いつもあたしの味方でいてくれる優しいオネエちゃんで。すごく男前ですよ?」

 あたしはすっかり打ち解けたみたいに、自慢げに小さく笑った。