「・・・・・・遊佐の気持ちも、仁兄や哲っちゃんが言うことも、・・・分かりすぎてるくらい分かってるよ・・・」

 モスコーミュールのグラスを両手で包んで。あたしは、黙って耳を傾けてくれてるユキちゃんに、ぽつりぽつり話をした。
 もう何の予定も無くなった週末の前夜。全部が行き場を失くして、どうしようもなくて。独りで居たくなくて思い付いた場所は、やっぱり亞莉栖しかなかった。 

 四つくらいしかないテーブル席に二組のお客さん、カウンターには他に二人。耳をすり抜けてくようにジャズが流れる店内は、落ち着いた空気に包まれてた。

「・・・でもなんであたしのシアワセを勝手に決めちゃうの・・・? 守るとか守れないって、そんなものに縛られるぐらいなら、臼井の家になんて生まれて来なきゃよかった・・・・・・」

 言ってる内に涙が滲んで来て、あたしはすん、と小さく鼻をすすった。

「・・・マコトちゃんも辛い選択だったとは思うのよ」 

 遠くを見つめるような横顔を覗かせたユキちゃんは、静かに言い切った。

「でも、チヨちゃんを泣かせるのは絶対に間違ってると思うわ」

 ここのとこ涙栓を締めても締めても、あちこちから水漏れが酷くて。
 我慢できずにハンカチで押さえ、ぐずぐずの鼻声でユキちゃんに謝る。

「・・・ごめんね、お店まで来て泣くとか・・・」

「いいのよ。泣ききっちゃう方が楽になるんだから。言ったでしょ、アタシはチヨちゃんの味方だって。好きなだけ甘えてちょうだい」

「・・・・・・ありがと・・・」

 濁点が付いたみたいな声でようやく言い、あたしはひっそりと涙を流した。 
 ユキちゃんは黙ってほんの少し、BGMのボリュームを上げてくれてた。
 そういうトコはすごい男前で・・・カッコイイ人だった。