「臼井ちゃん、なんか顔色悪い? 大丈夫?」

 同じ経理担当の有田さんに顔を覗き込まれた。
 四十をちょっと越した、バツイチで面倒見のいいママさん。娘さんと姉妹みたいに仲が良いらしい。

「・・・あー、ちょっと夜更かししちゃってー」

 書類を渡しながら。嘘で誤魔化す。

 笑おうと思えば笑える。・・・大丈夫、あたしは。
 自分に呟いた。
 こうして会社に来て。仕事もしてる。話せる。
 
 躰の中はがらんどうで。脳みそは言われたコトだけをこなす機械に成り果てて。
 いっそのこと壊れたかったと思うのに。・・・正気だ、あたしはまだ。

 


 それでも。部屋に帰ると途端にスイッチが切れて抜け殻になった。
 着替えるのも億劫で。灯りを点けるとベッドとリビングテーブルの間に仰向けに転がり、組んだ両腕で光を遮るように目隠しをする。

 ・・・・・・なんであたしここに一人でいるんだっけ。ぼんやりと。

 家を出て、ちゃんと一人で全部出来るようになって、じゃないと遊佐の隣りに戻れないって。 

 二人でちゃんと答え合わせする為に離れたんじゃなかった?

 そうしなきゃ意味がないって。

 なのになんで、一人で勝手に答え出して終わらせちゃうのよ・・・・・・。

 

 いつかこんな日が来そうで。どっかで。そうなるのを怖れながら、分かってたような気もする。
 遊佐はあたしを愛しすぎてるから。守れない自分が傍にいるのを、赦さなくなるだろうって。

 惚れた男の為なら、盾になって死んだって後悔なんか無いのにね。
 遊佐にもその覚悟つけてもらうまで諦めないって、決めてたんだけどね。

「・・・・・・・・・仁兄と結婚しろって・・・なんなのよ・・・」


 あの夜から。ココロが擦り切れて、繋ぎ止めるものがもう何もなくなったみたいに。
 砕けて粉々になっちゃいそうだった。あたしがあたしだ・・・って意味ごと。