遊佐はずっと黙ったままだった。ずっと抱き締めて、あたしが泣き止む
までそうしてた。

「・・・・・・宮子が誰と結婚したって、オレはオマエの傍にいるよ?」

 顔を上げる前に切なそうに笑う気配がした。

「一生。離れないで守ってやる。・・・病める時も健やかなる時も、・・・何があっても最期まで」

 まるで。
 誓いの言葉みたいだった。

「オマエが幸せになるのを見届けるまで、ちゃんとオレはいるから」


 まるで。

 別れの言葉。・・・だった。

 心臓が。嫌な音を立てて軋み始めてた。

 躰の芯から凍てついてくようだった。

 息が。出来なくなりそうだった。


「オレもオマエとは結婚しない。誰ともしない。・・・死んでもしない」

 吹っ切るよう声で遊佐が笑ったのが聴こえた。
 


 イヤだって。ふざけるなって。怒って、引っ叩いて喚き散らしたら。もっと、わんわん泣いて引き留めたら。遊佐は考え直してくれる?

 あたしは知ってる。一度決めたコトは翻さない男だって。自分と信念は絶対に曲げない男だって。 


 足許が崩れて、奈落の底に落ちてくのを。
 自分のコトじゃないみたいに感じてた。

 光がどんどん遠ざかって、闇しか無くなるのを。
 力尽きて、ただ呑み込まれてくように。

 指一本抗うことすら。

 セカイが色を失くす。
 絶望だけに塗り替えられて。