「遊佐」

 もはや会社の飲み会と化してる離れの広間に戻り、座椅子に右脚を投げ出した格好で座ってる遊佐の隣りに腰を下ろした。
 ロングのキュロットスカートの裾が、畳にふわりと広がる。

「なに?、起きちゃったの?」

 周りには榊、葛西さん、・・・とその仲間たちが数人、遊佐を囲むように胡坐をかいて盛り上がり中だった。
 悪戯っぽく笑われて、あたしも小さく笑い返す。

「主役が抜けちゃイミないでしょ」

「お嬢も、ほら呑んで下さいよー!」

 だいぶ顔が赤い葛西さんは、一升瓶片手にやたらハイテンション。

「・・・仁兄は?」

 遊佐にさり気なく訊ねて。
 見渡した限り姿がない。

「さっき帰った」

「そう」

「誕生日祝い渡し損ねたからまた連絡するって、伝言」

「・・・うん。分かった」

 相手が仁兄じゃなかったら、二度と会わないで済むのに。“家族”を壊すつもりなんて無いから。・・・何度でも受けて立つよ、仁兄。




 
 遊佐が潰れる前に、お父さん達に挨拶して二人で先に引き上げさせてもらう。
 実家から遊佐の家までは、敷地内の小道を行けば10分と掛からない距離。車椅子を押しながら、ちょっとした酔い覚ましだ。
 今夜は月も隠れてる。明日って曇りかな、雨かな。
 悠長に天気の心配してる場合じゃないのにねぇ。自分に苦笑い。

「そう言えばさ、・・・遊佐」

 カエルや虫の合唱をBGMに、半分くらいまで来た時。あたしは一瞬、夜空を仰いで。それから遊佐の頭の後ろをじっと見つめて言った。わりと落ち着いてた。

「んー?」

 気怠そうな声で心持ち、横顔をこっちに傾けた仕草。

「仁兄に、あたしと結婚しろって言ったの・・・あんたでしょう」

 今日やっと気付いた。だって仁兄らしくないコトばっかり言ってた。
 哲っちゃんも。きっと気付いてた。

「遊佐らしくて・・・笑えちゃったよ」

 もう一度、闇空を仰いで。あたしは仄かに笑った。