やがてテーブルの上に、ふわふわ溶き玉子の雑炊と牛肉のしぐれ煮が乗った大根サラダ、それと瑤子ママお手製の杏仁豆腐が並んだ。

「お嬢の口に合うかい?」

向かいに胡坐をかいた哲っちゃんの優しい眼差しに見守られて、あたしはれんげを持ち、熱々の雑炊を口に運んだ。

「ん・・・。おいしい」

お出汁が効いてて、柔らかくてあったかい・・・。なんだか、食べたものに味を感じるのがすごく久しぶりな気がする。

お腹は空くんだけど食べたくなくて。榊が強制的に買って来るサンドウィッチやプリンを、ただの作業のように咀嚼して飲み込んで。余っても捨てるわけにも行かないから、お昼のお弁当代わりにもした。

どれを食べても味なんかしなかったし、会社でお茶やコーヒーを入れても温度も感じなくなってた。なんの魔法だろう。じんわり温かさが染み込んでくる。ほっとする。

「なら、いい」

大好きなもう一人の“お父さん”の深い愛情が伝わってきて、張ってた糸がぷつりと解けた。目頭が熱くなって湯気のせいにしたかったけど、こみ上げた涙がポロポロ零れ落ちてた。

黙って隣りに来た哲っちゃんが男物のハンカチを差し出す。

「食えば気も落ち着く。・・・冷めねぇ内にゆっくりな」