「仁兄・・・?」

「相変わらず酒は弱いなお前。大して呑んじゃいないだろうが」

 寝かせられてたのが、母屋の自分の部屋のベッドの上だと気付く。
 ここまであたしを抱いて運んだのは仁兄。今までだったら、素直に感謝しかなかった。何だかいたたまれなさが先に立って、ぎこちなく笑えもしない。 

「・・・ごめん、ありがと」

 大丈夫だからもう。
 そう言おうとして蘇った記憶。さっきの。・・・口移しされた・・・。
 思わず唇に指を当てたあたしを見て、仁兄は薄笑いを浮かべた。

「応急手当みたいなもんだ。気にするな」
 
「・・・気にしてない、別に」

 素気なく言い、あたしは気怠い躰を半分起こす。

「仁兄は戻っていいよ。もうちょっとしたら、あたしも戻るから」

「馬鹿言え。放っておけるか」

 溜め息を吐き、縁に腰を下ろした仁兄は。手を伸ばすと躊躇なくあたしの頬に触れた。
 振り払えなかったのは。眼差しが真っ直ぐにあたしを貫いてたから。
 まるで金縛りに遭ってるみたいに、指先ひとつ動かせない。

「・・・俺と結婚しろ,宮子。真の分まで必ずお前を幸せにしてやる。何があっても俺が守ってみせる。・・・真は諦めろ。それがお前の為だ」

 耳に届いた言葉を。あたしは無意識に拒んでた。首を横に振って。
 
 遊佐以外、あたしを幸せになんかできない。遊佐しかいない。あたしは遊佐だけでいいの・・・! だから聴きたくない、そんなのは!

「真は心底、お前に惚れてる。惚れてるからこそお前と結婚はしない。あいつは・・・そういう奴だぞ」


 心臓が。凍り付いて、全身の血まで固めてしまったように。
 あたしは目を見開いたまま息すら。止まってた。