マンションに到着して、榊はすぐには車から降ろしてくれなかった。どうやら付いて来た方のお兄さん達が、周囲を確認し終わるのを待ってるようだった。
 スマホで報告を受けてから、それでも辺りを警戒しつつ榊は、部屋に入るまであたしをずっと庇うように自分の体を盾にしてた。

 梅雨入りも間近で夜でも空気が蒸してる。
 あたしも喉が渇いてたし、冷蔵庫から取り出した炭酸水のペットボトルを、玄関先に突っ立ってる榊に軽く投げた。

「・・・サンキュ」

 その場でキャップをよじり、一気に半分くらいまで飲み干す榊を眺めて、小さく吐息を漏らすと。問うような視線がこっちに向いてた。

「なんかさ。・・・あたしって、守ってもらわないと生きていけないのかって思って」

 苦い笑い。

「あたしの所為で誰かが傷付くのはね・・・」

 遊佐の脚の傷を目にするたび。二度と繰り返したくないって、胸が抉られる思いで。

「・・・榊も約束してよ? あたしを一人遺してくような真似したら、ゼッタイ赦さないからね?」

「後でも追ってくれんのか」

「三途の川の手前で連れ戻すに決まってんでしょ」

「・・・相手が違うだろうが」

 呆れたような目線が上から降る。

「地獄でもどこでも追っかけてって、道連れにしてもらうからいーの、遊佐にはね」

 あたしは、あっけらかんと笑った。

「だからあんたは遊佐を守ってやって。分かった?」

 
 
 あたしだけを守ったって、遊佐がいないなら。
 この世界に意味なんか無いんだから。