連休の終わりに遊佐の思い付きで海へ出かけた。正確には、磯焼きを食べにだけど。
 お昼のテレビ番組で紹介されてたのを観て、我慢できなくなったらしい。

 榊と三人で、土産物屋さんの店先で炭焼きされてる、焼き醤油の香りがたまらないイカだとかサザエなんかを堪能して、お土産も沢山買った。
 
 海は南国みたいに澄んでもないし、碧(あお)いって言うには程遠い色をしてた。
 岸壁の上から見渡す限りの水平線と蒼天を、思い切り胸に吸い込むと。自分のコトでいっぱいいっぱいのセカイが、小さくてしょうがなく思えた。ちょっと単純な自分が笑えた。

 アスファルトの歩道上を、車椅子でゆっくり自走する遊佐に付き合って一緒に歩く。

「宮子と海来たの久々だよなー」

「そーだねぇ。ちゃんとした海は久しぶり?」 

「あんまり色んなトコ連れてってやれなくて、ゴメンな」

 さり気なく言われて。一瞬、胸が詰まった。キュッと締め付けられる想い。
 泣きそうになるからわざと茶化して答えた。

「新婚旅行を世界一周にしてくれれば、チャラにしてあげる」

「・・・チャラにはなンないだろ」

 遊佐は儚そうに笑っただけだった。 


 いつも割りと飄飄としてるから。本心かそうじゃないのか、掴みかねる時もある。でもその時は直感だった。
 遊佐がいなくなっちゃいそうで急に怖くなった。

「・・・遊佐っ・・・」

 思わず前屈みに首に抱き付いてた。

「宮子・・・どした?」

 いきなりで驚いた気配。でもすぐに、宥めるように優しくあたしの頭を撫でる。
 自分でも何がそんなに不安だったのか分からない。ただ、こみ上げて来る感情を止められずに。

「・・・・・・ずっと傍にいるって約束して。あたしを絶対に一人にしないって・・・!」
 
 言葉がほとばしった。

 遊佐はしばらく黙ったまま、あたしの髪をそっと撫で続けた。
 オネガイ言って。それだけでいいから。そしたらあたしは・・・っっ。

 結婚できなくてもいいって、その時初めて思った。遊佐がいてくれさえすればって。

 ふと撫でる手が止まる。

「・・・オレは、死んでもオマエから離れるつもりはねーよ」

 静かな声だった。

「宮子を守る為にオレは生きてンだから」



 それは。まるで杯を交わす誓約のように響いた。