場所を移して、スイーツが楽しめるお店で女子会の再開。
 三歳上のダンナさんの愚痴もノロケにしか聴こえない紗江が、「でさ」と鋭い直球を投げ込んで来る。

「遊佐クン、まだ結婚ためらってるの?」

「・・・かな」

「宮子ん家が特殊なのは知ってるけど、身分違いみたいのとかあるワケ?」

「ないない。・・・周りが勝手に、あたしを臼井の跡継ぎって目で見てるだけだよ。お父さんもおじいちゃんも遊佐のことは認めてるし」

 溜め息雑じりに言うと、眉を顰める紗江。

「じゃあやっぱり遊佐クンが、結婚イコール自分の介護になるって頑固に思ってるとこがネックなのね?」

「・・・・・・かもね」

 あたしは弱弱しく笑った。 

「宮子におんぶ抱っこになるって思わないで、別けっこするって思えばいいだけじゃない? 結婚てそういうことでしょ、男のプライドってやつ? やっかいね、それも」

 グラスの中のアイスティをストローで掻き混ぜ、氷をつつく。考え事する時の紗江のクセ。

 
 あたしも背負う気でいた。紗江の言う『別けっこ』とは少し違う意味で。
 一年前のあの時は。・・・そう、贖罪でしかなかった。

 “自分が遊佐の傍で一生支える。それがあたしの役目だから”

 前向きなようで後ろしか見てなかった。
 事故に囚われて、遊佐の前でろくに笑えもしなかったのに。

 『・・・・・・あたしと結婚して』

 俯いたまま目を合わせることすら出来ずに、まるで悲壮な覚悟をしたようにあたしは云った。

 あんな激しく怒りをたぎらせた遊佐を見たのは。
 生きてきて、初めてだった。